大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所那覇支部 昭和48年(う)173号 判決 1974年4月24日

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

<前略>

一被告人中村の弁護人の控訴趣意第一点(事実誤認および法令の解釈適用の誤りの主張)について。

所論は、要するに、原判示第一の事実について被告人中村は、途中で強姦の意思を放棄し、その後被害者江子が逃げ出して海中に入り溺死したものであるから、同被告人について強姦致死罪の成立する余地はないのに、同被告人を同罪に問擬した原判決には、事実を誤認したか法令の解釈適用を誤つた違法があるというものである。

よつて、所論にかんがみ、原審記録を精査し、諸事実を十分に検討したが、原判決挙示の関係各証拠を総合すれば、原判示事実を優に肯認することができるのであつて、原判決には所論のような事実誤認ないしは法令の解釈適用の誤りはないとの結論に達した。以下順次判断を加えることとする。

まず、被害者が海に向つて逃げ出す前の状況について審案するに、原判示日時ころ、原判示ビーチを被告人中村と被害者江子が散歩中、同被告人の後方を歩いていた江子が同被告人の右足につまづいて前方に倒れかかつてきたので、同被告人は同女を支えようとしたが支えきれず、自らも同女とともにその場に倒れたが、その際に、同被告人が、同女の姿態を見てにわかに劣情を催し、同女を強いて姦淫しようと決意し、その右肩あたりを掴んで仰向けに倒して同女に乗りかかり、救いを求めて叫ぶ同女の口を右手で塞ぐ等して、強いて姦淫しようとしたところ、同女の悲鳴を聞いて被告人高嶺がかけつけて来た事実は、被告人中村が原審公判廷で認めるところであり、原判決挙示の関係各証拠によつてもこれを肯認するに十分である。

そして、被告人高嶺の検察官に対する各供述調書および同被告人の司法警察員に対する一九七一年三月一八日付供述調書ならびに被告人中村の司法警察員に対する各供述調書によれば、次のような事実、すなわち被告人中村が仰向けになつた被害者江子の上に乗りかかり、同女がさかんに助けてくれと叫びながら足をバタバタさせてもがいていたところへ、被告人高嶺がかけつけ、被告人中村に対して「こんなに声をたてさせたら、人が来るではないか。」と注意したうえ同女の口を押えておくよう申し向けたこと、被告人高嶺は、被告人中村が同女を押えつけている状況を目撃して、急に同女を姦淫する気になり、足をねじらせて抵抗する同女のパンツの胴ひもを両手で掴んで膝のあたりまで引きおろしたが、同女はパンツを脱がされまいとしてなおも下半身をばたつかせていたこと、被告人高嶺が同女のパンツをさらに膝頭の下あたりまで脱がせたところ、同女は急に抵抗をやめて被告人らの要求に応ずるような態度に出たので、被告人高嶺はその手をゆるめ、被告人中村は押えていた手をはなし立ち上がると、同女も立ち上つて、脱がされていたパンツを自分ではき直したこと、そのとき被告人中村が被告人高嶺に対し方言で「お前はちょっと向うに行つてくれ。」という趣旨のことをいつたので、被告人高嶺は、自分がいては被告人中村が同女と性交をするのに邪魔になるものと思い、同被告人に対して先に同女と性交をする機会を与えるため、車に戻つたこと、被告人中村は、被告人高嶺が去るやいきなり同女にキスしようとしてその正面約一歩ほど手前に近寄り、同女の両腕を掴もうとして両手を伸ばしたところ、同女はその手を振り払つて後ずさりし、被告人らから強姦される危険を避けるため、いきなり海の方に向つて夢中で逃げ出して海中に入り、その結果溺死したことが看取されるのである。右のような事実に照らせば、被害者江子が立ち上つてパンツをはき直した時点においても、また同女が被告人中村の手を振り払い海の方に向つて逃げ出した時点においても、同被告人が同女に対する強姦の意思を放棄して強姦行為を中止したものではなく、かえつて、同女が右のように海の方に向つて逃げ出すまで同被告人は同女を強姦しようとの意図のもとに強姦行為を継続していたものであり、右江子の溺死は被告人らの強姦の行為が原因となつて生じたものと認めるのが相当である。

よつて、右と同趣旨に出て、被告人中村を強姦致死罪に問擬した原判決は正当であり、その判断の過程に所論のような事実誤認ないしは法令の解釈適用の誤りはない。論旨は理由がない。

二被告人高嶺の弁護人の控訴趣意について。

所論は、要するに、被告人高嶺の行為と被害者江子の死亡との間にはなんら因果関係がないのに、これを認めて被告人を強姦致死罪に問擬した原判決には事実誤認または法令の解釈適用の誤りがあるという主張に解される。

よつて、所論にかんがみ、原審記録を精査して審案するに、すでに被告人中村の控訴趣意に対する判断の際説示したとおり、被告人高嶺は、被告人中村が被害者東江の上に乗りかかり、同女を姦淫しようとしているのを目撃するや、自己もまた同女を姦淫しようという気になり、足をばたつかせている同女のパンツを膝のあたりまでひきづりおろしている事実があるばかりでなく、被告人高嶺自身も司法警察員に対し、被告人中村が強姦したあと自分も続いて同女を強姦するつもりであつた旨認めているのであり、したがつて、被告人両名が同女を強姦するについて意思を相通じていたことは明らかというべく、しかも被告人高嶺がその場を去つたのは、前説示のとおり被告人中村に先に姦淫行為をさせるためであつたことが看取され、また、被害者江子の死亡は、前説示のとおり被告人両名の強姦行為が原因となつて生じたものであると認められるのである。してみれば、右と同趣旨のもとに被告人高嶺を強姦致死罪に問擬した原判決は正当であつて、これに所論のような違法はない。論旨は理由がない。<以下省略>

(森綱郎 屋宜正一 堀籠幸男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例